チランジア未熟種子をひょんなことから無菌播種することになったので今回紹介する。
いつの間にかチランジア(Tillandsia ionantha)の自家受粉*1に成功しており、写真を撮った後に喜びのあまり触っていると、さやが取れてしまったので無菌播種することにした。
まずハイポネック培地(狩野,1976)を作っておく。組成は水、ハイポネックス微粉、寒天、ショ糖だけでよい。コチョウランやデンドロビウム用にジャガイモ絞り汁やバナナジュース、活性炭粉末などを加えることもあるが今回は必要ない。
組成(500ml)
微粉ハイポネックス 1.5g
ショ糖 17.5g
寒天4g
水500ml
私がチランジアで使っている培地では上記の分量で作成している。
寒天の量はpHが低いと固まらないので多めに入れることがあるが、基本的に中性に近いpHなので500mlだと寒天4g程度で問題ない。(また、過去にシランの無菌播種をした時にカチカチの培地よりもある程度柔らかい培地の方が生育が良かった)
鍋に水を入れて加熱し、ハイポネックス、ショ糖を入れて撹拌した後に寒天を入れる。寒天を入れる際は沸騰はさせないように火力を調整する。
ジャム瓶などのフタ付きガラス容器に分注し、フタを軽くしめる。圧力鍋で25分間滅菌する。(実際、オートクレーブにかける時は121℃、1.2気圧、20分だが家庭用の圧力鍋なので)
無菌播種についてはさやの状態によるのだが、さや破裂して種子が飛び出ていないのなら中身は無菌であるから、さやを食器用洗剤で洗い、70%エタノールにつけて消毒し、次亜塩素酸ナトリウム溶液で浸漬した後に火のついたコンロの近くで播種する。
さやの中に4つの部屋があり、下の画像はそのうちの1つである。
先端の方は綿毛で根本に種子があるので無菌播種する時は消毒したさやを半分くらいに切断し、ピンセットで残った綿毛の部分を摘むと簡単に取り出せる。
さやが破裂して種子が出てしまっている場合、次亜塩素酸ナトリウム溶液(有効塩素濃度1%)で15分間浸漬した後に火のついたコンロの近くで播種する。面倒であればミニビーカー(20ml)の中に水5ml、カビキラー1〜2プッシュしたものを使う。カビキラーには界面活性剤も含まれているのでおすすめ。
火のついたコンロの近くで作業する方法だけでなく、無菌箱の中で播種する方法や風呂場の窓を閉め切り無風状態を作り出して播種する方法もあるが、次亜塩素酸ナトリウム溶液につけた種子を培地に置いた後に次亜塩素酸ナトリウム溶液(有効塩素濃度1%)か、微酸性電解水で容器内とフタの内側に噴霧する方法もある。
画像ではゴム手袋を使用しているが、エタノールがついた状態で火の近くで操作すると引火してゴム手袋が溶けて火傷する。エタノールが付着した素手に引火した場合は表面のエタノールが燃えるだけ*2であるから安全である。
ハイポネックス寒天(Kano)培地作って無菌播種しました
— まつもと (@_matsup_) 2020年12月20日
自作クリークベンチで無菌操作してるのでコンタミするかもしれません pic.twitter.com/tiOT2d1YJd
8/20に無菌播種をして、4日後の24日の種子を見ると…
見えづらい写真で申し訳ないが、1つだけ白くなった種子がある。
思ったよりも生育が遅い。初めは白い塊のようなものが出てきて若干膨らんだ後に緑色になった。この調子で育てるとイオナンタになるのだろう。
一方、完熟種子の方では種子の綿毛の間のところが肥大し、小さいイオナンタになった。
個人的な感覚だが、未熟なうちに種子を回収して無菌播種するのと、完熟させたものを濡れティッシュや寒天培地上で育てるのもほとんど大差がないように思える。
ただ、濡れティッシュの上で発芽させても乾燥させてしまい枯らすこともあるので、ビンの中である程度まで大きくして順化*3させるほうがいいのかもしれない。
下記リンクはあった方がいいものを4つピックアップしたが、ピンセットなら消毒ができるもの、もしくは火の近くで扱うので火炎滅菌できるものがあれば買わなくて良い。
今回私はジャムやノリの佃煮が入ったガラス瓶を使ったが、100均で売っているプラのタッパーに培地を入れて電子レンジにかけるのでも、ビニール袋やペットボトルに培地と微酸性電解水を…と、別にここに書いてある情報だけにこだわらなくてもよい。
意外と自由度があるし家庭でもできるので「バイオってそこまでお金かからないでしょ?」と思うかもしれないが、だからといって科研費とかを削るのは良くない。